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【2021年7月版】「新型コロナのせいで自殺者が増える」は本当か?

2020-08-01

「昨今の感染症拡大により、仕事を失って、それによって自殺者が増える」という説があります。これは本当に起こり得るのか考えてみました。

  • 2020年の終わり〜2021年にかけて自殺者が増える可能性がある。実際、7月に入って増加に転じた。
  • その場合、自殺者数は新型コロナによる死者数を大きく上回る可能性がある

※ 初版は本記事執筆時点(2020/8/1)で収集可能なデータをもとにした大雑把な予測なので、全然違う結果になる可能性もあります。あくまでも1つの意見として見て下さい。また、新しい統計数値が出たタイミングで随時更新していきます。

更新履歴:

  • 2020/8/1:6月分のデータを元に初版公開
  • 2020/8/11:7月分の自殺者データをもとに更新
  • 2020/9/10:8月分の自殺者データをもとに更新
  • 2020/11/10:10月分の自殺者データをもとに更新
  • 2020/12/12:11月分の自殺者データをもとに更新

近年は自殺者がずっと減少していた

警察庁のWebサイトに、自殺者数の推移を表した資料があります。

ここには、最近5年間の月別の自殺者数が記されています。それによると、月によるバラツキはあるものの、概ね自殺者数は減少しているように見えます。後ろの方でもっと長い期間のグラフも出しますが、この10年くらいは減り続けており、2019年の自殺者数は20,169人でした。今のペースでいけば、今年は統計が残っている昭和53年(1978年)以降では初めて2万人を割りそうな勢いです。なお、自殺者の減少割合は人口全体の減少割合よりも大きく、人口あたりの自殺者数の割合も減少しています(自殺者数の減少は人口減だけによるのではない)。

さて、今年は感染症拡大により、3月以降はテレワーク等の急速な拡大など、今までにないペースで社会全体が大きく変貌しています。統計的な有意性は調べていませんが、今年の4〜5月は特に、例年のペースから推測される以上に自殺者数が減っているように見えます。理由は色々考えられます(リモートワークにより満員電車での通勤を避けられた・理不尽な上司を直接見る機会が減ってストレスが減った等)が、これだけ見ると良いことのように思います。

2020/8/11更新:7月になると6月までのように昨年から明らかに減った状態から、昨年と同じレベルの数値になりました。増加傾向にならなければ良いのですが…。

2020/9/10更新:7月に引き続き8月も増えているので、たまたま7月が多かったのではなく、増加傾向に入ったと考えられます。

2020/11/10更新:とうとう2015年の水準を超えてしまいました。

2020/12/12更新:大幅に増えた10月よりは減りました。しかし、過去5年の同月の数値と比べると、11月にしては多いのは変わらないですが…。

2021/8/29更新:7月は別ですが、2019年に近い水準になっているようです。

2015年以降の年月別自殺者数(警察庁 令和3年の月別自殺者数について(7月末の速報値)および令和元年中における自殺の状況 資料をもとに管理人がグラフを作成)

失業率と自殺者数の関係

しかし、このままのペースで自殺者が今年は減るのでしょうか?

実は(何となく分かると思いますが)失業率と自殺者数にはある程度の相関があるように思います。特に、1998年前後の日本の金融危機では、それまで2〜3%程度だった失業率が4〜5%に跳ね上がっています。逆に、アベノミクスが始まった2013年ころからは、失業率が1997年以前の水準まで下がってきています。

年別の自殺者数と失業率(自殺者数は警察庁 令和3年の月別自殺者数について(7月末の速報値)、失業率は総務省統計局 労働力調査 長期時系列データ 主要項目をもとに管理人がグラフを作成)

このグラフから、失業率が上がると自殺者が増える傾向にあることが分かります。

今後の失業率と自殺者数についての予想

さて、今年の感染症拡大により、直近で失業率に変化はあったのでしょうか?

総務省統計局のデータには月別の失業率も掲載されているのでグラフ化してみました。

年月別の失業率(総務省統計局 労働力調査 長期時系列データ 主要項目をもとに管理人がグラフを作成)

2020年の5〜6月を見ると、ほぼ2.5%弱で推移していた2018年〜2019年と比べて、増加しているように見えます。ニュース等で伝えられているように、飲食店や旅行・イベント関係の業種で倒産や人員削減が行われています。その影響が失業率にも現れているようです。

グラフには出していないのですが、総務省統計局の失業率のデータを見ると、1998年前後の金融危機や2008年9月のリーマンショックのようなイベントが起きてから、数ヶ月〜1年程度かけて徐々に失業率が伸びていました。昨今の感染症拡大はワクチンや特効薬が開発されるまでは収束が難しそうであり、恐らく1〜2年はかかると考えられる(感染をあえて広げて集団免疫をつけるようにして、その過程で抵抗力の弱い人を淘汰した方が、早く収束する上に将来的な社会保障関係の費用も抑えられて一石二鳥という説もありますが…)ので、上記の業界やそれに関係する業界では経営状態が悪くなり、今後も倒産や人員削減が増えていくでしょう。そのため、2020年の終わり〜2021年の前半にかけて失業率が伸びていくと思われます。

そうなると、何が起こるでしょうか?

失業率の増加に対応して、自殺者も増えると予想されます(あいにく自殺者の月別人数は古いデータがないため、失業率の増加と自殺者の増加のタイムラグは分かりません)。場合によっては、自殺者数が2019年の2万人強から、1998年のように3万人にまで増え、それが数年続くこともありえます。つまり大雑把な計算で、(2019年の水準と比べて)自殺が数万人増えると考えられます。

本記事初版執筆時点(2020/8/1)で、新型コロナによる死者数は約1,000人です。今後感染が増えて、仮に死者数が10倍の1万人になったとしても、自殺者数よりは明らかに少ないでしょう。また、感染する確率は、冷静になって考えると実はかなり低く、無視できると言って良いレベルです。

新型コロナによる死者数の抑制と、経済対策の両立はなかなか難しいとは思います。ただ個人的には、感染による死者数が少々増えたとしても、経済対策に全振りした方が、トータルでの死者数は抑えられると思います。

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